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東京家庭裁判所 平成6年(少)1429号 決定

少年 K・I(昭55.2.14生)

主文

少年を教護院に送致する。

(非行事実)

少年は、

第1  現在、中学3年生であるが、小学4年生の2学期から不登校が始まり、現在に至るまでほとんど登校しない状態が続いている。中学2年生の夏休みころから不良仲間と付き合い始め、深夜徘徊、喫煙などの不良行為を繰り返している。平成5年10月20日、バイクを盗んで無免許運転をしたことで、警察の取調べを受け、同年11月、児童相談所に通告されたり、そのころ、家出をして不良仲間と一緒に区営プール管理人室の鍵を壊して侵入し、そこで寝泊りをしていたこともある。これらのことを注意する母親に対しても暴力行為を加える等、保護者の正当な監督に従わず、その性格又は環境に照して、将来、窃盗、暴行などの罪を犯す虞のある

第2  A及びBと共謀のうえ、平成6年3月28日午前8時20分ころ、東京都足立区○○×丁目××番×号付近路上において、通行中のCの後ろから少年がバイクで走り抜けた際、少年の後ろに座っていたBが、Cの右手に抱えてあった現金10万円及び札入れ等9点在中の皮製セカンドバック1個(時価合計2万2000円相当)をひったくって盗んだ

第3  A及びDと共謀のうえ、平成6年3月30日午前7時ころ、東京都足立区○○×丁目××番足立区立○○公園前路上において、通行中のE子の後ろからAがバイクで走り抜けた際、Aの後ろに座っていたDが、E子の左腕にかけられていた現金1300円及び診察券等5点在中のビニ一ル製手提げバック1個(時価合計500円相当)をひったくって盗んだ

ものである。

(法令の適用)

上記第1の事実について、少年法3条1項3号イ、ハ

上記第2、第3の各事実について、いずれも刑法60条、235条

(処遇の理由)

1  関係各証拠によると以下の事実を認めることができる。すなわち、少年は、両親が○○教の布教活動に忙しいことや、経済的に苦しいことなどから、家庭で十分に構ってもらえたと感じられなかったり、欲しいものを買ってもらえなかったりすることが多く、欲求が満たされる経験が少なかった。この不満が、家庭内では母親への暴力となり、学校、友人との関係では、友人に暴力を振るったり、逆に自分がいじめられたりという状態を招いた。その結果、少年は家庭や学校で、いわば爪弾き状態となり、さらに疎外感が強くなるという悪循環となり、不登校や不良仲間との交遊が続いている。本件第1のぐ犯事実の背景にはこのような事情があり、また、そのような不良仲間との付合いを維持するために金が必要であるところから、上記第2、第3の窃盗がなされている。

少年の問題行為は期間も長く、かつ、家庭内暴力、夜遊び、不登校、犯罪行為と生活全般にわたっている。そして、少年の家庭は経済的に苦しいことから少年の養育まで十分行き届かなかったこと、父親は少年の暴力を恐れて少年に何らの注意もできず、また、母親は熱心ではあるが自ら児童相談所との連絡を断つなど、その監護方法に問題も見られ、家庭内での監護環境、能力は十分でない。学校においても、少年と一緒に問題行動をしていた仲間はそのまま残っており、事態は全く変わっていない。

少年は、当審判廷において、今後は友人から誘われても悪いことはしないこと、真面目に学校へ行くことなどを誓っている。その供述態度から、現在、少年にその意思があることは十分認められるが、不良仲間との交際そのものを断ち切る決意までは認められないこと、上記のような家庭や学校の環境などを総合考慮すると、少年をこれ以上在宅で処遇することは適当でなく、施設での矯正教育を受けさせることが相当である。

2  ただ、少年の非行の原因は家庭や学校で受け入れてもらえないという、愛情欲求不満に根差していること、少年はいまだ14歳と低年齢であることを考えると、家庭的な環境の中での処遇が望ましく、教護院での教育を受けさせることが少年にとって最善であると考える。

よって、少年を教護院に送致することとし、少年法24条1項2号を適用して、主文のとおり決定する。

(裁判官 河原俊也)

〔参考〕 抗告審決定(東京高平6(く)129号 平6.6.7決定)

主文

本件抗告を棄却する。

理由

本件抗告の趣意は、少年の法定代理人親権者父K・M作成名義の抗告申立書(編略)に記載されたとおりであるから、これを引用するが、その論旨は要するに、少年を教護院に送致した原決定の処分が著しく不当である、というのである。

所論にかんがみ、本件少年保護事件記録及び少年調査記録を調査して検討するのに、本件非行は、少年が窃盗、暴行等の罪を犯すおそれがあるというぐ犯の事案と、少年が共犯者である少年と共謀の上で、ひったくり窃盗2件を敢行したという事案であるところ、少年の処遇に当たって考慮すべき事情は、原決定が(処遇の理由)の項において詳細に認定・説示するとおりと認められる。すなわち、少年は、小学校の4年生のころから学校への不登校を繰り返すようになり、特に小学校6年時と中学校2年時の欠席は顕著であって、現在に至るまで少年に対する学校教育は殆どできていないといってよい状態にあり、また、不登校が始まったころと時を同じくして、母親から注意されると母親に対して暴力を振るったり、家財道具を壊すなどの粗暴な行動に出るようになり、さらに中学校2年のころからは、同年代の少年らとの不良交友も始まり、種々の非行や問題行動を繰り返すうちに、本件非行に至ったものであって、少年は、学校側の教育や指導に従う態度を示さず、かえって学校内で問題行動に走るなど、学校での少年に対する指導や教育はもはや限界に達しているといわざるを得ず、また、少年の父親は、少年に対する教育に殆ど無関心であり、少年がこのような問題行動を起こしても適切な指導ができない状況にあり、少年の母親についても、その指導や注意に対して少年はかえって反発し、暴力を振るうなどの態度に出ていることが明らかである。一方、少年は、学校や家庭においては受容感が得られず、そのために不良交遊を継続するとともに、自己の意思を素直に表現できないがために、非行や問題行動に及ぶなど、少年には資質上の問題点も認められ、このような本件非行の動機、内容、少年の交友関係、生活態度、鑑別結果によって認められる少年の性格や資質上の問題点、年齢、家庭環境、両親の監護能力等の事情を総合考慮すれば、少年の自立と更生をはかるためには、少年の持つ以上のような問題点を改善し、その社会適応力を高めるとともに、義務教育を全うさせることが急務であるというべきである。したがって、原決定が少年を教護院に送致したのは相当であって、これが著しく不当であるとは考えられない。論旨は理由がない。

そこで、少年法33条1項後段、少年審判規則50条により本件抗告を棄却することとし、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 小泉祐康 裁判官 日比幹夫松尾昭一)

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